財政と金融
1. ケイジアン
マクロ経済理論の一つであるケインズの
「雇用、利子及び貨幣の一般理論」によれば
その国の経済水準(景気)は
総供給が総需要を上廻るとき、
価格ではなく生産量が減少するという
数量調整が働くとした。
総供給が総需要を決めるのではなく、
総需要が総供給を決めると考えた。
そこで、景気回復(GDP増)の為には
公共事業等の投資(財政出動)により
需要を増加させれば乗数効果により
総供給が増加し、失業率も低減するという
経済理論を展開した。
総供給と総需要が一致するときの
総需要を有効需要と呼ぶ。
この有効需要が総生産や失業率を決めると
考えた。
これを後で述べる有効需要の原理
(45度線分布)という。
このように、不況期に財政出動を増やし、
又は減税を行い有効需要を創出し
好況期には財政出動を抑え、
又は増税を行い有効需要を抑える政策を
フィスカル.ポリシーと呼ぶ。
2. マネタリスト
ケインズのマクロ経済理論に対して
ニューケイジアン的経済理論を展開する者が
現れた。
その代表がフリードマンである。
その経済理論は価格調整の働きを重視し
失業は短期的現象であり
賃金等の低下により解消し、長期的には
自然失業率に対応する実質国民所得に至る
と考える。
短期的には貨幣供給量の増加は
名目国民所得を高め物価を押し上げ、
更なる貨幣供給量の増加を招き、
更にタイムラグを伴って実質国民所得を
不安定にさせると述べる。
従って、ケインズの理論の数量政策は
不安定な効果をもたらすのみで、
長期的にはインフレを引き起こすだけ
であると考える。
そこで、貨幣供給量の増加率を一定に
維持する政策を主張する。
現実には経済成長率を事前に予測するのは
困難であるので、貨幣供給量を一定率(K%)
で増加させる金融政策が取られる。
3. IS-LM曲線
財政、金融政策の効果を分析する手法であり
貯蓄をS、投資をI、実質貨幣需要量をL、
名目貨幣供給量をMで表し、縦軸に利子率r、
横軸に国民所得yを取り
その相関関係をグラフで示したものである。
利子率r IS曲線 LM曲線

流動性のわな 45度線分布 完全雇用状態 国民所得y
(有効需要状態)
財市場の均衡条件を満たす利子率と
国民所得の組合せを表す線をIS曲線。
貨幣市場の均衡条件を満たす利子率と
国民所得の組合せを示す線をLM曲線という。
IS曲線が右下がりなのは利子率が上がると
企業、個人の投資が減りタイムラグを伴って
企業の売上減を招き、賃下げ、
失業率増等により国民所得が減少する
理由による。
LM曲線が右上がりなのは国民所得が
増加すると、企業、個人の取引需要
(購買力)が増加し
貨幣需要が増大するので利子率が上がる
理由による。
又、LM曲線の水平部分を「流動性のわな」、
45度線分布部分を
「有効需要分布」、垂直部分を
「完全雇用状態」の経済状態を示している。
4. 流動性のわな
貨幣需要には取引需要、予備的需要、
投機需要があるが景気回復の為に
金融政策を行い利子率を次第に下げていき、
ある利子率に至ると投機需要が無限に増大し
取引需要に貨幣が廻らない現象が生じる。
即ち、貨幣本来の流動性が失われるので
この状態を「流動性のわな」と呼ぶ。
この状態においては金融政策は景気回復に
効果を発揮しない。
5. 有効需要分布(45度線分布)
可処分所得を「1」増加させると、消費がC
増加するとすればこの「C」を限界消費性向
と呼ぶ。
増加した可処分所得のうち消費されない部分
が貯蓄に廻ると考えると
「1-C」を限界貯蓄性向「S」と呼ぶ。
一般的には消費と貯蓄の増加分の和は
国民所得の増加分に等しくなる。
従って、投資を1増加させると
国民所得「y」を1/S=1/(1-C)増加させる。
言い換えれば、国民所得の増加は
投資1の1/S倍となる。
この「1/S」を投資乗数と呼ぶ。
景気回復の為には国民所得の増加が
必要である。
この乗数公式によれば投資1を増加させる
代わりに政府支出「G」を1増加させるか、
又は、税金「T」を1/C減税させても
同じ効果が生じることになる。
又、当然のことながら
政府支出乗数Y/G=1/1-Cと
租税乗数Y/T=-C/1-Cの和は1となる。
これを均衡乗数Y/G=1-C/1-C=1とも呼ぶ。
通常、租税制度は累進課税を取っており
所得税が実質国民所得の変動幅を小さくする
役割を果たしている。
この累進課税制度や失業保険制度等は
ビルトイン.スタビライザーと呼ばれ、
資本主義社会の安定化に役立っている。
6. ハイ.パワードマネー
中央銀行は市場に現金通貨を供給する為、
債券、手形、外貨等を購入する。
又、各金融機関に現金通貨を貸し出す。
各金融機関は預貯金の一定割合を
支払準備金として中央銀行に
預金しなければならない。
これを法定準備金という。
つまり、中央銀行は現金通貨と
法定準備金を負債とし、
購入した債券、手形、外貨等を
資産としている。
この中央銀行の負債である現金通貨と
法定準備金との和をハイ.パワードマネーと
呼ぶ。
中央銀行はこのハイ.パワードマネーを
コントロールすることにより
金融政策を行う。
例えば、金融緩和を行う場合、
債券市場で債券を購入すれば現金通貨が
売り手に渡り、
その現金の全部又は一部が金融機関に
預金されその預金の
一部が貸し出されるので、
ハイ.パワードマネーの増加分の何倍かの
マネーサプライの増加が生み出される。
この係数を通貨乗数(信用乗数)と呼び、
次式で示される。
Mh:ハイ.パワードマネー
Ms:マネーサプライ
C:現金通貨
Dp:預金通貨
Db:法定準備金
h:現金、預金比率(C/Dp)
r:法定準備率(Db/Dp)
とすると
通貨乗数
Ms/Mh=C+Dp/C+Db=(C/Dp)+1/(C/Dp)
+(Db/Dp)=h+1/h+r
従って、Ms=(h+1/h+r)Mh
つまり、ハイ.パワードマネーMhの
(h+1/h+r)倍の
マネーサプライが市場に供給される。
この他に中央銀行は公定歩合の操作、
法定準備率操作等により
マネーサプライをコントロ-ルする。
7. まとめ
IS-LM曲線の分析手法によれば、
経済が「流動性のわな」状態にあるときは
財政政策により、
IS曲線をLM曲線の「45度分布の状態」まで
右側に移動させる必要がある。
この状態(有効需要分布)になれば、
金融政策が有効に働き財政、金融政策の
相乗効果が期待され
国民所得は完全雇用状態の国民所得値に
次第に近づくことが予測される。
経済が「流動性のわな」状態にあるときは、
金融政策で貨幣供給量を増加させても、
それらの貨幣は投機需要として保有されて
しまうので利子率は不変のままである。
従って、この場合はIS曲線を右側に
シフトさせる財政政策のみが有効となる。
然し、民間引き受けによる公債発行等で
政府支出をさせたとき一時的には
政府が民間の資金を吸収し
利子率を上昇させるので
民間投資を減少させるという
クラウデイング.アウト効果が生じる。
このクラウデイング.オウトにより、
一時的には国民所得の減少を招くが
相対的には国民所得が増加するので
財政政策は有効である。
然し、マネタリストは公債の資産効果等に
より国民所得は向上しないと主張し、
財政政策の有効性を否定する。
今日の日本経済の現状をみると、
マネタリストの主張が正しいとも考えられる。
バブル崩壊から10年、日本経済は
不良債権の先送りを続けながら
財政出動を行い景気回復を計ろうと
して来た。その経済政策はケイジアンの
経済理論に基ずいているともいえる。
その結果、巨額な財政赤字が残り
これ以上の
財政出動は困難な状況にある。
一方の金融政策は超低利が5年以上
続いており、残る金融政策は
マネサプライの増加のみのように思われる。
巨額な財政赤字を抱えた状態での規律なき
マネサプライの増加はハイパーインフレを
招く恐れがある。
未だに「流動性のわな」を脱出出来ない
日本経済の現状をみて、
若し、ケインズが生きていたなら、
どのような新しい経済理論を
発表しただろうか。
産業システムの構造改革を行い、
効率の良い産業構造を早急に築くことは
グローバル経済競争に勝つための
必要条件である。
然し、効率の良い経済システム
(経済構造)が出来たとしても果たして
総需要は回復するのであろうか。
逆に、デフレーションが進み日本経済は
ますます不況に落ち込む悪循環の
サイクルに入るとも思われる。
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